心理検査

箱庭療法用具に関するQ&A

箱の内側が青く塗られているのはどうしてですか?

内側が青く塗られているのは、重要な主題となる池、湖、川、海などの感じを出すためです。
ユング心理学では、人間の意識は、無意識の大海の上に築かれた陸地のようなものと考えています。
それで砂を掘れば水があらわれ、 そこからさまざまな情景が展開することがよくあります。

クライエントに水は自由に使わせてよいでしょうか?
また、砂の量は加減してもよいでしょうか?

箱庭療法は、原則として、なにを使っても結構です。しかし、水を使うと、退行的な気分を招いて、作品が荒れたり、まとまらなかったりすることもあります。
多量の水を使いたがる場合には注意が必要です。
砂の量は、あまり多過ぎると箱からこぼれて扱いにくいので、普通は箱の1/3~1/2程度の量で良いのですが、大きな山を作る場合など、もっと砂がいることもあるので、増減できるように予備の砂をバケツなどに用意しておくとよいでしょう。

クライエントにはどのような導入方法をとったらよいですか?

なるべく自然な感じではじめて下さい。
たとえば、「この砂箱に、ここにあるおもちゃを置いて、なにか情景を作ってみませんか」というような感じでよいと思います。
子どもの場合は、「砂の上におもちゃを置いて遊ぼう」と言えば、喜んで作り出すことが多いようです。しかし、おとなは、テストされると誤解する人もいますから、場合によっては、そこに、自分の世界観や心の中に浮かんだ情景を作ることが、創造力を促すはたらきをするというような説明を加えてもよいでしょう。あるいは、「たまには童心にかえって、砂遊びでもして下さい。」と誘ってみるのも一つの方法です。

適用年齢について教えて下さい

適応年齢に制限はありません。玩具をもって遊べる年齢なら何才でもできます。

統合失調症とかそううつ病などの人に対して箱庭療法を行うのはどうでしょうか?
逆に言えば実施しないほうがよい症例がありますか?

精神病者への箱庭療法の適用は、これまでにあまり多くありませんので詳しいことはまだよくわかっていませんが、一般に進展が遅く、非常に用心深い作品が多いようです。
あらゆる新しい試みには、どれにも同じような注意が必要だと思いますが、クライエントの状態をよく観察しながら試みて下さい。
<補遺>箱庭療法は、この質疑応答がなされた初期のころには、子どもの治療が中心でしたが、現在では統合失調症やうつ病、境界例などにもかなり適用されていて、効果を上げているとの報告例も多くみられます。ただし特に初心者が手がける場合には、経験豊かなスーパーバイザーについたり、担当の医師と緊密に連絡をとるなど、細心の注意が必要と思われます。

箱庭療法について深い素養がないのですが、それでもクライエントのプラスになり、
治療につながるでしょうか?

誰でも最初は経験も素養もありません。
それでも箱庭療法をすることができます。
箱庭を作る人は自分の作品を見て、そこからなにかを感じとり、自分で自分の気持ちを自然に整理していくのです。
箱庭療法は自己治癒的なものです。
箱庭療法家は、作品を見て指導するわけでも、クライエントを直接に治療するわけでもありません。ただ、作者は自分でもわけもわからないものを作ってしまったり、恐ろしいものを置いてしまったりするので、一人では不安です。
そこで傍にいて、そこに表現されるものを一緒に受けとめてあげるのが箱庭療法家の役割なのです。
ちょうど助産婦のように、クライエントが無意識の世界からなにかを生みだそうとする努力を助け、励ましてあげるのが療法家です。
たくさんの作品を見たり、受けとめたりすることで、次第に経験を積み、自分の心を育て、無意識の世界をよりよく知るようになるでしょう。

カウンセリングと併用する場合の導入の仕方を教えて下さい?

話が一段落した時とか、話が堂々めぐりしていたり、行き詰まった時などに箱庭をすすめてみるのが一般的です。 しかし、箱庭作りに時間がかかるようであれば、次回からは、あらかじめ箱庭のための時間をたっぷりとるか、先に箱庭を作ってから話をすることも考えられます。

箱庭療法とコラージュ療法の関係について教えてください?

コラージュというのは絵画の一技法なのですが、これを心理療法に応用したのがコラージュ療法です。雑誌の写真や絵などを切り取って台紙に貼り、自分で構成して新しい絵を作り上げていきます。
箱庭療法は、絵画療法やコラージュ療法とも共通点がありますが、箱庭のおもしろいところは、なんといっても立体的なところです。箱庭を立体的コラージュと考えてもよいし、コラージュが平面的箱庭だともいえます。
箱庭は、絵の世界ではなくて、実際に小さなお人形や動物が動くのですから、なかなか実感があります。また、砂とか土にさわるというのは、心理療法的に大きな意味があるのではないかと思いますが、砂を用いるのも、コラージュ療法や絵画療法と異なる、箱庭療法の特色の一つだと思います。
<補遺>近年注目されているコラージュ療法は、既成のものを組み合わせて新しいイメージを構成するという点で、箱庭療法とよく似ています。砂箱も玩具もいらず、身近な材料でできるので、箱庭よりも場所的制約が少なく、手軽にできるのが特徴の一つで、ベッドサイドでも、またクライエントが自宅でやることもできます。
コラージュは、技法としては平面的であっても、立体的なイメージを表現することはできますし、箱庭以上に多様な表現が可能かもしれません。また、材料が豊富であれば、自分のイメージにより近いものが選べますが、写真などはリアルなだけに、逆にイメージが限定されてしまう可能性もあります。クライエントによっては箱庭よりおもしろいという人もあれば、写真を切るのに抵抗があるなどという人もあって、適用はケース・バイ・ケースといえます。

箱庭療法は、ユング心理学を応用した治療法なのでしょうか?

ユングは、夢の中には、それを見た人が経験したこともない不思議なイメージがあることに気づきました。それはどこか原初的で、神話的な要素を持っていて、特殊なパターンをかたちづくっています。
そこからユングは、人間の心の奥の無意識の世界には、そのようなイメージを生み出すもとがあるに違いないと考えて、そこを元型(アーキタイプ)と名付けました。
そして、この特殊なイメージのパターンを元型的心像(アーキタイパル・イメージ)と呼びました。このイメージが、無意識の世界から意識上に浮かび上がってくる時には、いつも激しい情動とダイナミックなエネルギーをともない、多くの人々に理由のない共感を感じさせ、そして肯定的にも否定的にも作用して、私たちの判断や行動に大きな影響を与えるものとされています。
そして箱庭療法は、砂箱の中に表現される、この内的世界に特有なアーキタイパル・イメージの持つダイナミズムを治療に利用して、クライエントの生命力を引き出し、また、判断や行動の変化を目指したものと考えられます。
<補遺>箱庭療法の全身と考えられる「世界技法 The World Technique」(1929)は、イギリスのローエンフェルト女史が考案した子どものための心理療法で、もともとはユング心理学とは無関係に始まりました。
この世界技法を現在行われている箱庭療法のかたちにしたのがスイスのカルフ女史で、彼女はこれを「砂遊び Sanndspiel」(1966)と呼び、後に河合隼雄氏がこれを日本語に訳して「箱庭療法」としたのです。
箱庭療法は、技法的には世界技法とあまり変わりませんが、ただ、カルフ女史は、ユング心理学的な見方でこの治療法を見直し、さまざまな意味でユング心理学応用できることを発見したといえます。
つまり箱庭療法は、ユング心理学にもとづいて新たに作られたわけではなく、すでにあった技法にユング心理学を応用してみたら、色々なことがわかってきたということです。

象徴について教えて下さい?

ユングは、一般的に象徴といわれているものを三つに分けています。すでによく知られているものを一定のしるしであらわすのは記号的表現、またすでに知られているものであっても、何らかの理由でほかのものを借りて表現するものは寓意的表現と呼ぶべきであるとしています。
そして、本当の象徴的表現とは、それまでまったく知られていないもので、ただ予感的に感じられる「なにものか」を指すもので、これ以上はよりよくそれをあらわすことができない、というようなときにとられる表現であるといいます。
夢や箱庭に表現されるアーキタイパル・イメージも、無意識の世界の、元型という未知の「なにものか」をあわらすと考えられるので、象徴的表現をとらざるを得ないのです。
また、このような象徴的表現は未知のものを指しているのですから、同じようなものや図形で表現されていても、そのつど新しく解釈されるべきものであり、また表現されるたびに新しい感動を呼び起こすものです。そして箱庭の中に繰り返される象徴的表現も、作者にとってはつねに固有な新しい世界を示すものなのです。

死と再生を主題にした作品とは具体的にはどんなものですか?

夢や箱庭の作品では、現実と違って戦争があったり、動物を殺したり、交通事故で人が死んだりするような、死のイメージが沢山出てきます。
しかし、もちろん、これらのイメージは象徴的なもので、心理的になにかが死んで、その要因が失われたことを示します。その後で、これまでそのことに使われていた心理的エネルギーは、なにか別の形をとって再生するでしょう。
そこで死をあらわす十字架やお墓などの玩具がよく使われます。そして死んだものに対して哀悼を捧げるのです。その後でかわりに花が咲いたり、赤ちゃんが置かれたりして、なにかが再生するイメージがよく見られます。新しい登場人物や出発の主題を持つ作品は、再生をあらわすもので、心理的な変化を意味します。
<補遺>何かが、砂に埋まったり、トンネルや洞窟に入ったり、あるいは大魚や大蛇、怪獣にのみ込まれるなどした後に、再び出てくるという表現も、死と再生の主題としてよく見られます。
後者の場合を特に「夜の航海(ナイト・シー・ジャーニー)
」とよぶこともあり、旧約聖書のヨナの話や、お伽話のピノキオにも共通する主題です。

マンダラとはどういうものですか?

マンダラとは、もともと仏教でつかわれている円や四角を組み合わせた幾何学的な図形で、最高の心理をあらわすものといわれます。
おそらく最初は仏さまの地上の住居として、大地を清め、色の砂で四方に開かれた門のあるお城のような祭壇を作り、そこに神仏の霊を招くために作られたものと思います。
マンダラは自分の力を超えた超越的なものをあらわす宗教的なイメージともいえますが、ユングはこのイメージを、心の中心であり、全体であり、私という存在を越える包括的な「自己」そのものをあらわす図形であると考えました。

空間表象について教えてください?

作品を見るとき、まず基本的な構図と、その象徴的な意味(空間表象)を知っておくと便利です。
箱庭の作品は原則として、向かって左を心の内的世界、右を外的世界をあらわすものとして考え、左上隅は倫理的・宗教的・父性的・思考的、左下隅は根源的・本能的・直観的、右上隅は社会的・感覚的、右下隅は母性的・家庭的・感情的な場として考えます。
そして、心の向かう四つの方向性が考えられ、左が内的な方向、右が外的な方向、手前が身体的な方向、向こうが精神的な方向と考えられます。例えば玩具が砂箱全体からいって左側の方に多ければ、作者のそのときの心は内的な世界ではたらき、右側なら外的な世界に向けられていることになります。
そして、例えばミニカーが左側から右側に向かって走っていれば、ミニカーであらわされるエネルギーのようなものが、すすんで外部に働きかけようとしていることを示します。
また、例えば、左上隅の場所にミニカーがたくさん集まって、混乱し、衝突事故を起こしているような場合には、何かの理由で人生問題や宗教的な問題で行き詰まり、頭の中が混乱してどうしてよいかわからなかったり、あるいは非常に父親的な、~せねばならない、~すべきでない、という倫理観が混乱していて、非行などを犯しがちなこともあります。
<補遺>箱の枠の外に玩具がはみ出して置かれる場合は、一般的に、一つの箱に納まりきらないほどの大きな問題を抱えていることが多く、注意が必要ですが、どちらの方向にはみ出しているか、空間表象を参考にして、クライエントの抱えている問題を考えてみてもよいでしょう。
なお、箱の上空に飛行機や魔女、竜などを糸でつるして飛ばせたり、箱の下方の床の上に地下都市を作るなど、いわば立体的に、箱の枠からはみ出すこともありますが、独創性を示す場合もあれば、やはり抱えている問題の大きさ、根深さを暗示する場合もあるようです。

箱庭療法はなぜ治癒に役立つのですか?

箱庭療法が、なぜ治療的な意味をもつかということは、まだよくわかっていません。 おそらく、人間のイメージ的な構想力が心の統合をはかり、バランスをとるのに大きな意味をもつからだと思われます。
作品に表現される情景は、作者の一つの世界観の表現であり、自分でもよくわからないもやもやした気分に形を与えたものです。
それは言語的なものよりもはるかに大きな、イメージによる心の全体的な表現といえるでしょう。そこから、思考による整理された考えだけでなく、感覚や直観や感情も含んだ体験的な自己洞察が生まれ、それが治療の効果を上げるものと思われます。
<補遺>「イメージ的な構想力」とは、無意識の世界から浮かび上がってくるアーキタイパル・イメージを表現しようとすることであり、またその場合、イメージ的に理解しながら表現していくことでもあると思われます。それによって心の統合がはかられ、バランスがとられるとともに、生命力や創造力が引き出され、判断や行動にも変化がもたらされるものと思われます。